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Suicaに電池はあるのか?

「人体通信」が尊い命を救う

2014年01月01日

最先端技術

研究員
飛田 真一

 今から200年以上も前、イタリアの科学者アレッサンドロ・ボルタは「電池」の原型を発明した。カエルの足が金属に触れると痙攣(けいれん)を起こすことから、「電気は生物の中に蓄えられている」という当時の学説を真っ向から否定し、ボルタは亜鉛と銅、硫酸だけで電気を流して見せた。以来、電池は急速に発展を遂げた。

 今では、スマートフォンから電気自動車、宇宙ロケットに至るまで、電池がなければタダの箱。ボルタは電圧単位の(V)に名を残す偉大な科学者だが、電池が生活の隅々までこれほど普及するとは夢にも思わなかっただろう。

 電池技術が発展を遂げる上で、課題となったのがその小型化・薄型化である。電卓やデジタル時計には太陽電池が採用され、カードのように薄い商品が続々と登場している。 

 さらに、カード自体に電池不要の電子回路を組み込んだ非接触ICカードが開発され、その代表的なものがJR東日本の「Suica」である。2001年以来、その発行枚数は4000万枚を突破し、交通系ICカード全体の半分以上を占めている。

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Suicaの中に電池はなかった!

  Suicaの厚さは1mmにも満たない。この中に、改札口の読み取り機とやり取りする通信機能や、乗車履歴を記憶するメモリーなどが組み込まれている。通信やデータ記憶には電気が必要なのに、Suicaには電池の入りそうなボックスや充電用の端子は見当たらない。

 そう、電池がなくてもSuicaは働いてくれるのだ。もし、電池交換や充電を必要とするなら、改札口で電池切れなどのトラブルが多発したことだろう。

 ではなぜ、Suicaには電池が要らないのだろう。その使い方に、秘密が隠されていた。駅の改札口を通ったり、電子マネーとして買い物したりする際、利用者は読み取り機にタッチする。この読み取り機からは常時、通信信号が出ている。

 そして、利用者のかざしたSuicaが、内蔵アンテナでこの信号をキャッチする。次に、Suicaの中の「レクテナ」(整流回路)がその信号から電気を取り出し、通信やデータ記憶などを可能にしている。

 Suicaの中には、回路の動作を安定させるコンデンサーと呼ばれる電子部品は入っているが、電池は使っていないのである。

通信から電気を取り出す技術.jpg

 

「静電気」が心電図に応用できれば...

 無線の通信距離は実に様々である。例えば、宇宙探査機「はやぶさ」が小惑星イトカワにたどり着いた時、地球との通信距離は3億kmに達していた。

 これに対し、Suicaのような近距離無線通信(数cmから数m)の技術開発で今、最もホットな技術は「人体通信」である。つまり、人間の表皮付近に存在している「静電気」を伝送路として使いながら、通信を行う技術のことである。

 人間が筋肉を動かすと、超微弱な電流が発生し、ほんのわずかだが静電気の量が変化する。子どもの頃、下敷きをこすって頭に近づけて髪の毛を吸い付けた経験はだれにでもあるだろう。ゴシゴシこすると、髪の毛が強く引っ張られるのは、静電気が強くなったからである。

人体通信の実験風景2.jpg

 実は、この現象が心臓の拍動を検査する「心電図」に応用しようと研究が進められている。現行の心電図では、電極クリップを肌に直接付けて、心臓の筋肉が発する電気信号を検出している。ただし、検査を始めるまでに衣服をまくる必要があり、患者の容態が一刻を争う際には向いていない。

工学と医学の垣根を取っ払いたい

 人体通信を心電図に応用できれば、救急車で搬送される患者は着衣のままクリップを付けず、ストレッチャーの上で検査を受けられ、救命活動の貴重な時間を無駄にしないで済む。救急車の出動は年間580万回(2012年度)に達しており、尊い生命がさらに救われるようになるだろう。

 入院患者が心電図を測る場合、電極を肌に長時間付ける必要がある。一方、人体通信型の心電計であれば、皮膚がかゆくなることや、電極のコードが身体に引っかかることもなくなり、長時間測定のストレスが軽減される。

 ところで、心電図は体調によって刻々と変化する。体調が悪くなる場合、1時間ほど前から特定のパターンが見られるケースもある。

 もし、人体通信型の心電計を運転席に取り付け、本部でモニターできるようにしておけば、宅急便や長距離トラック、タクシーなどのドライバーの体調が悪化する前に予見できる可能性が高まる。また、独り暮らしのお年寄りのベッドや椅子などに装着できれば、安否確認にも応用できそうだ。

 無線通信に関する研究・開発を行っている株式会社アンプレットの社長で、 東大病院の医療機器管理部特任研究員、東京電機大学の非常勤講師を兼務している根日屋英之氏は次のように指摘している。「近距離無線の中でも、人体近傍の電界※を利用した人体通信には、技術面でもビジネス面でも大きな可能性がある。人体通信技術を応用すると、非接触電極による心電計も実現できる。今後、工学と医学が連携し、高齢者が安心して住める生活環境を実現したい」 ―

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飛田 真一

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※この記事は、2014年1月1日に発行されたHeadlineに掲載されたものを、個別に記事として掲載しています。

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